魔法学校は夢

課題で書いた奴。


 

 

 がたん、大きな揺れで目が覚める。はっとあたりを見回せば、コンパートメントの外からクスクスと笑い声が聞こえた。
 魔車――魔力を動力源とし、鉄でできた線路を走る列車――に乗るのは初めてなのだが、思い切り眠っていたようだ。座席がふかふかで異様に居心地がいいのは、魔車を利用する主な客が金銭的余裕のある貴族だからなのだろうか。

 僕は、今年王都の学院に入学する新入生だ。
 学院とは、優秀な魔法使いを養成するために我らがルミエル王国が公的に用意した学び舎であり、その生徒は国内各地から集められた優秀な学生たち。
 王都での学びは、魔法使いを志すすべての人間の憧れであり、幼いころからの僕の夢でもある。だからこそ、入学案内が届いた時は本当に嬉しかった。

 僕が故郷の村から、馬車や魔車を乗り継ぎはるばる王都までやって来たのはそういう訳なのである。

 うたた寝の影響で崩れた身なりを直し、窓に張り付くように外をぐっと覗く。どうやらさっきの揺れは魔車の停車によるものだったらしく、外では大きなトランクを抱えた学生たちが、とうに電車を降り駅の出口へと向かっていた。
 大慌てでトランクの持ち手をひっつかみ、ガタガタと壁や何やらにぶつかりながら魔車を降りた。僕は人間の中でも小柄な方だから、大きなトランクを持つとひどく歩きにくいのだ。荷物を網棚に乗せることもままならないので、今思えばコンパートメントを独占できたのは運が良かった。
 改札を抜けると、そこにはまるで本でしか見たことのない世界が広がっていた。森の木の高さを二倍にしても届かないほど、高いレンガ造りの建物が軒を並べ、店先では当然のように魔法用の杖や大鍋が売られている。
 ここは、王都の中央に位置する駅と学院を結ぶ、いわば学びの聖地だ。栄えているのも魔道具が売られているのも言ってしまえば当たり前なのだけれど、僕にとってはそのどれもが新鮮で、感動に足るものだった。
 フラフラと吸い寄せられるように、視界に入った杖の店へ近づく。恰幅の良い店主のおばさんは、ほがらかに「いらっしゃい」と声をかけてくれた。
「リンゴに、ニレの木……。あッ! この杖はハシバミですよね?!」
「あら、詳しいのね?」
「予習! して! きたのでっ!!」
 半ば呼吸を乱しながらそう答えると、おばさんはくしゃりと笑ってたしなめる様に言った。
「勉強熱心なのはいいことだけど、自分の杖を持つのは二年に上がってからよ」
「はい! 存じております! ……でもっ! 今から待ち遠しいです。本当に――!」
「ふふ」
 二人顔を見合わせひとしきり笑った後、僕はまた歩き出す。
 駅から学院までの大通りは、石畳で綺麗に舗装されたゆるやかな上り坂だ。
 道のまんなかは馬車が通るので少し空いているが、その分端の方はごみごみしている。
 背がとても高い人、低い人、もさもさと毛の生えた獣人、フードのローブでよく見えないけど、前を歩く人の裾からちらっと鱗が見えた時はさすがにびっくりした。
 なんせ故郷の村は人間しかいない上に周囲との交流が乏しかったものだから、僕は人間以外の種族を見たことがなかったのである。

 駅の『こちら側』は、用途のせいもあるのかやたらと魔法に関するお店が多いけれど、時折学生が好みそうな軽食も売られている。
 砕いたナッツを混ぜ込んで焼いたケーキの様な焼き菓子だとか、魔道具や魔導書など、勉強にまつわる物を模した飴細工だとか。これらの軽食は、どれも製作過程のどこかしらに魔法が関わっているというのだからやっぱり王都はすごい。田舎では考えられないことばかりだ。
 羽根ペン型の飴細工を齧りながら、僕はよろよろと学院への道を歩く。ようやく見えてきた大きな門は堂々と開かれ、これから学びの道を歩み始めるであろう僕らをただそこで待っていた。

 

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