TRPG、SW2.0「マナリア学園CP」より。
うちのこ現パロ。よそのこ少々。
とた、とた、とた、と明るく弾む足音に、ぴしゃりぴしゃりと水の跳ねる音が重なる。目の前で揺れるやけに凝ったデザインの水色の折りたたみ傘と、グレー1色の制服のスカート。こんなどしゃ降りでそんなさしかたじゃ濡れるだろうに、彼女は雨傘を日傘のように斜めにさして柄を肩に乗せていた。傘の向こうの長い銀髪の毛先がほんのすこし覗き、他と同じく歩みに合わせてゆらゆらと揺れている。
俺はそれを見つつ、黙って彼女の後ろを歩いていた。
国道沿い故きちんと舗装はされているものの、目的地は俺たちの通う高校から少し遠くどしゃ降りの中歩くのは大変だ。それでも彼女の足どりは軽く、そのせいか、不思議と俺自身も歩くのを嫌だとは思わなかった。
俺と彼女は『仲のいい友人』だ。きっかけは、最後列の窓際に座る俺の隣が、転入生だった彼女の席になったから。という単純なものだった。
「俺はシャック。隣の席になったからには、困ったことがあったら何でも言ってくれ。できる限り力になるよ。……よろしくな」
内心面倒だと思っているのを隠しつつ努めて笑顔で手を差し出せば、彼女は何の疑いもなくその手を握り返す。
「ありがとう。よろしく、シャック。私はアナスタシア。アナスタシア・グラキエースよ。……それと」
彼女が少し俯き、さらりと髪が揺れる。俺達が座る窓際の2席へふと差し込んだ陽光が、ぱっと彼女を照らした。皐月の朝の少しだけ鮮烈な日差しにあてられた彼女を、俺は特に深い意味もなくただ綺麗だなと思った。
「よければ、なのだけど」
少しだけ声を潜めて、彼女は続ける。朝のホームルームはいまだ終わらず、担任は連絡事項を滔々と述べているけれど、きっと俺も彼女もまともに聞く気なんてはじめからなかった。
ふっと日に雲がかかり日差しが途絶える。
はてさて一体全体何を言われるのかと少し身構えたが、その悪戯っ子のような横顔に、本能的にそれが杞憂であると理解した。
そしてたっぷり数秒の沈黙のあと、彼女は「私とお友達になって頂戴」と照れたように笑ったのだ。
――思えば、彼女はそのときにはもう、手を伸ばせば届きそうな場所できらきら輝いていた。
癖がなく素直な銀色の髪。極地の氷みたいに澄んだ水色の瞳。氷砂糖のような甘くさっぱりとした声で物語の一節が如く柔らかに語られる言葉は、なんてことない世間話ですらなぜだか特別に感じられた。
春の一等星みたいな実直で優しい光をまっすぐ投げかけてくるくせに、伸ばしさえすればすぐ手の届くところで俺のことを見ていたんだ。
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