めぐりさんのひとりごと

自創作キャラ言葉ことのはめぐりのはなし。


 

 

時折、夢を見る。
それはいつかの私にとっての日常。
「…………」
教室。一番後ろの、窓際の席に私は座っている。右斜め前を見れば教室の大半が視界に入り、左を向けば、開いた窓の外に校庭が見える。
右、左、どちらを向いても、誰かが誰かへ語り掛ける姿が目に映り、彩と、動きと声と、たくさんの言葉に囲まれて、私は、ただ時が止まったみたいに座っていた。

その教室において、私はただの置物だ。否、置物ですらないのかもしれない。
とはいえ空気と呼ぶには必要性が足らず、異物と呼ぶには向けられる意識が足らず、そんな何者とも呼び難い私は、やっぱり何も言わず、ただ座っていた。

原因は単純だ。”その日、”私は、色々なことを間違えて人間関係の一切を失った。
失った、とは文字通り失ったという意味であり、視線も交えたことのないようなクラスメイトを筆頭に、つい前の日まで言葉を交わしていた友人まで。私は、そのすべてに『いないもの』として扱われるようになった。
幸い、教師陣は多少怯えたような様子を見せつつも話しかけに行けば無視をしてくることはなかったし(ここで言う『話す』というのは当時の私の会話の手段であった『筆談』によるコミュニケーションのことだ)、小学校時代の友人や家族、親戚なんかとは、特に変化もなくやり取りしていたのだがそれはそれ。
ついで、過ちの罰だとでも言いたげに、”その日”から声が出なくなったのでよもや私になすすべはない。完全にお荷物だ。
「…………」
しばらくして、がらり、教室の扉が開き、一人の女の子が教室に入ってくる。
黒くて長い髪が綺麗なその子は、自分の席へおずおずと歩く。
その途中にかけられた気さくな挨拶に、一々びくびくとしながら不器用な笑顔で返事をして、癖なのだろう。音を立てないよう椅子を引いて、机に荷物を置いて席に着く。
周囲の女子の何人かが声をかけ、それに慣れない様子で一生懸命応え、ふと、私と目が合う。
私は心から応援の意味を込めて微笑んだのだけれど、それでもやっぱり、ぱっと目を逸らされてしまった。

夢の中は日常相応に騒がしくて、それでも、私の世界に音はなかった。

じりじりとけたたましい目覚ましに手のひらを叩きつけ起床。
眠い頭に喝を入れつつ、洗面台へ体を引きずり顔に冷水をぶっかけて目を覚ます。
タオルを顔面に押し付け、ふと鏡を見やる。
「……おはよう、私」
声はよどみなく響き、
言葉はまっすぐ私へ届く。
覚めた頭は緩やかに動き出し、鏡の中の瞳はいつかと違いきちんとそこに生きていた。
ある日、出会い、ただ張り合うように正義の味方を目指した。
ある日、救われ、自分の弱さを悟り諦めた。
ある日、叫び、世界から音は失われ、
――”ある日”。
語り、私は私の願いを知った。
それはとても単純で、ありふれていて、馬鹿みたいで、夢見がちで笑っちゃうくらいくだらないけれど――夢物語は言霊の得意分野だ。
「……よっし!」
ぱちん、両頬を叩いて気合を入れる。今日も掃除やお祈り、学校の授業に放課後の訓練まで、予定はみっちり詰まっている。ちょっと暗い夢を見たからと言って落ち込んでいる暇はない。
……というか正直、落ち込むほど傷も残っていないのだけれど――それはまた別の話。
私の願いはただ一つ。
「今日も一日、ハピエンめざして頑張っていきましょー」
声高らかに拳を振り上げ、
「……なんちゃって」
一人部屋の中、ガラでもないってちょっと照れたのだった。

 

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