はかめぐ熱が動力なのではかめぐ風味ですがはかめぐではないです。書き散らし。
図地藤華と言葉めぐりのクラスが学園祭で演劇をすることになる。
演目はちょっとアレンジ入った赤ずきん。
本当は脚本やりたかったのに、演技力をめぐりに推されて狼役になる図地君と、小道具兼雑用係のめぐりさん。
赤ずきん役の子は演劇部所属でそっちの準備が忙しく、クラスの方には中々来れなかったので図地君が演技の個人練習時しきりにめぐりに赤ずきんをやらせる。
「もとはと言えばめぐりさんが僕を狼にしたんだよね?」
「返す言葉もこざいません……」
そうこうしてるうちにめぐりは赤ずきんのセリフをおぼえてしまったし、なんなら図地君の演技指導で「見れる」くらいまで引っ張りあげられてしまうなど。
学園祭1週間前、赤ずきん役の子がやっぱり演劇部の方の演目に集中したい!と言い出す。
そもそもその子が赤ずきんになったのは「演劇部だから」という雑な理由で、本人が乗り気じゃないのに押し付けた……と言えなくもない状況だったので、みんななんとも言えず「どうしよう……」となっているところで、「めぐりさん、赤ずきんやれるよね?」と言い出す図地君。
「実は、個人的な練習の時はいつも付き合って貰ってたんだよね! ねー、めぐりさん!」
「い、いやぁ……それは」
「覚えてるだろ、セリフ。」
「ん”……」
「僕、君のせいで脚本担当を逃したんだけどなあ」
「…………ハイ……」
1回演じさせてみたらまあサマになっていたのでそのまま決行されることとなる。
じごうじとく!
今回の赤ずきんは、無垢で無力な原作のそれとは違い、素直で奔放で、自衛能力がある現代風の赤ずきん。
ダイアローグはコメディタッチ。
「おばあちゃん。どうしてそんなにお口が大きいの?!」
「お前を食べるためさ!!」
「ごむたいな!!」
おばあさんの服を脱ぎ捨て(下には衣装係渾身の、なんかファンタジックでかっこいいヴィランっぽい服を着ている。狼耳つけてるし腕は毛皮と爪がついた手袋をつけてるけど、これ狼っていうか獣人じゃない?とはめぐりの言)とびかかる狼と、逃げ惑う赤ずきん。
家中めちゃくちゃにしながら乱闘を繰り広げる2人。
具体的には枕元にあった斧をぶん投げたり(!?)
こんなこともあろうかと家に仕掛けられたデストラップを作動させギロチンを落としたり(!?)
集めた毒草から抽出した毒のまきびしをばらまいたり(!?)
壁にかかっていたおじいさんの猟銃を撃ちまくったり(!?)
最終的に赤ずきんが狼を少しずつ消耗させ、窓際に追い詰める。
対して、猟銃の弾も今込められている1発で終わり。
本来は、赤ずきんが猟銃を撃ち、発砲音のSEを流して暗転する予定だったのだが……本番になって、銃口を図地君へ突きつけたまま、めぐりがぽつりと言ってしまう。
「狼さん。どうして? ……どうして、そんなに満足そうな顔してるの?」
「……」
しんと静まる会場。台本と違う!と青い顔をする舞台袖のクラスメイト。
とはいえその言葉は的を射ていた。
2人きりの本読み、何度か繰り返されたリハーサル、そしてこの本番においても。
展開が、『窓際で相対する2人』に差し掛かる度、確かな違和感を感じた。
思えば、たった今撃ち殺されようとしているにも関わらず、狼の表情のなんと満ち足りていることか。
「あなた、殺されちゃうんだよ?」
「窓はすぐそこにあるのに。あなたなら、私から逃げるのなんてわけないのに」
ラストシーン、狼の背後にあたる壁に窓をつけてほしいと頼んだのは図地藤華だった。
発砲音と共に窓が割れるSEを流すとより劇的ではないか、とかなんとか、適当な理由をつけて。
その実、脚本を担当出来なかった分、勝手に自分の役を掘り下げて、それを表現するための演出を水面下、自己満足で施そうとしただけなのだが。
「……逃げるだなんて、とんでもない」
言葉めぐりは、その意図にまでは気づかなくとも。何度も繰り返し相対していた分、塵が積もって山になるように、”それ”に気づいてしまい。
黙っていればいいものを、よりによって本番の土壇場で、口に出してしまった……というところ。
窓、狼と相対する赤ずきんは、当然客席に背を向けており、狼の表情もまた、赤ずきんの体に隠れ客席からは死角となっている。
本来、ほんの一瞬のシーンだからこそ……そして、赤ずきんが狼を撃ち抜く際、演出上の誤魔化しが効くようにこの画になったのだが……。
問答を始めてしまった今、互いの表情が互いにしか見えないので、観客は若干置いてけぼりである。
「元より僕は、どちらでも良かったんだ。」
狼は、動きを止めた赤ずきんの隙をつき、服を掴んでその身体を引き倒す。
小さく悲鳴を上げ倒れ込んだ赤ずきんの表情も、それを覗き込む狼の表情も観客からは見えないが、先程よりは状況がわかりやすくなった。
形成が逆転する。
「きみが、あまりにも輝かしいから。」
ハッ、と、投げ捨てるような笑みとともに吐き出された言葉は、どこか負け惜しみじみていて。
「柔肌に牙を沈め、動脈を噛み切り、血が失われゆっくりと冷たくなる君の。……濁りゆく瞳に映る最後のひとつとなることも。」
するりと首筋を撫でる指先は、とても冷たい。
耳をすませばその声は、言葉にして、声に出して聞かせることを、畏れるように震えていた。
翠緑の瞳と、紫紺の瞳が交差する。
「白く小さな手のひらを僕の血で赤黒く染め、その澄んだ瞳に、ささやかで綺麗な心に。穢らわしい屍の姿を刻みつけることも。」
体育館は、囁きひとつすら躊躇われるほど張り詰めていた。
互いの呼吸の音まで聞こえる静寂の中。
「僕にとっては等しく甘美だ。」
要するに、その光が曇りさえすれば。そしてその理由が自分であればいいのだと。
低く、唸るように語られた言葉。
床に倒れ、降り注ぐスポットライトで逆光となった狼の表情に目をこらすようにしながら、赤ずきんは黙ってそれを聞いている。
「さあ。」
狼は、右手で赤ずきんが握ったままの銃の銃身を掴むと、銃口を己へと向ける。
そして左手を赤ずきんの手に添え、その指を引き金へと誘った。
「なるべく酷く死ぬから、いつまでだって覚えていてくれよ」
口許はへにゃりと妙な歪み方で弧を描き、瞳は一見『ただ笑ってないだけ』に見えて、覗き込めばその奥は爛と熱を孕んで。
……ふっと零れた息はやはり笑っているように聞こえた、けど。
「……なんて返したらいいか、わかんない」
赤ずきんは、目の前の狼が何故そんなにも自分に執着するのか全くわからない。心当たりがない。
だからゆるゆると首を横に振って、けれど引き金を自分で引こうとはしないまま、困ったように狼を見つめている。
それを見て。ああ、これだから。と。
表情に意識を向け、ただ悪辣な微笑みを浮かべ、後を押す。
「あぁ、そうだ。君のおばあさんは僕が丸呑みしたから……」
はっと息を飲む音は、自分の下に倒れ、こちらを見上げる少女から。
膝立ちで踏みつけたワンピースの裾。
広がる真っ赤な外套。
散らばる焦げ茶の髪と、見開かれた目。
新緑を透かした木漏れ日のような瞳。
こちらに向けさせた銃を、縋るように握りしめる青白い手。
真上から照らされることで彼女へと落ちる、僕の影まで。
すべてを含め、想う。いい眺めだな、と。
「はやくしないと、溶けてなくなっちゃうんじゃないかな?」
もう、支える必要は無いと、銃身と引き金に添えていた両手を離す。
自分の意志で銃を構えた赤ずきんは、ふっと目を伏せ……と言うより、少し長い瞬き程度ではあるけれど。
束の間の逡巡のあと。
「……おぼえてて、あげる」
「うん」
瞼を上げた時、その瞳に、声に、居住まいに。もう迷いはなかった。
――赤ずきんが、引き金を引く。
銃声。暗転。こうまで展開が変わったのに、よくこうもタイミングよく……念のため残しておいた銃声単体のSEを流せたものだとは音声担当の言。
明るくなった舞台の上には、返り血で汚れた赤ずきんがひとり。
目の前の屍に触れる。
ヒトより高い体温が、自分より冷たく冷めていくのを……じっと待っているわけにもいかなかったから。
頭の吹き飛んだ狼の腹を包丁で裂き、愛する祖母を救い出して。
そうして、物語は結末を迎える。
おばあさんと赤ずきんは、いつまでも健やかに幸せにすごしたのでした。
めでたし、めでたし――。
幕が降りる。独特な迫力に拍手喝采。のち、カーテンコール。
後から自分のしでかした事を自覚し、上手から冷や汗ダラダラで登場するめぐりと呆れ顔のその他キャスト。
下手からニッコニコで登場する図地君。あれなんかあの人スキップしてない?
総員深々と頭を下げた後、めぐりは下手へ、図地君は上手へとすれ違うようにはけて、最後の最後で思い切りコースアウトしたアレンジ赤ずきんは終演となる。
脚本担当はコメディとアクションを志し改変したらしいが、なんとも後味が悪い終わり方になってしまった。
が、なんか妙に好評。とはいえ学園祭の出し物人気ランキングで票が集まるような方向性ではなく……コアなファンがつくような?
観客の誰かが終盤の展開を無断で録画していたらしく、SNSに勝手にアップされたりなんだり色々あるけど、それはまた別の話。
めぐりはみんなにめちゃ怒られたけど図地君はご機嫌で、その後ベビーカステラ奢ってくれた。
……よくよく考えると藤華の演技が今回のことの呼び水になってるわけだし、こうなる事を意図しなくても、なったら……いや、なってもいいなとは思ってたんじゃない!?
じゃあ藤華のせいじゃん!!
私だけ怒られるの納得いかないんですけど!!
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